新しいものを表示

「一期のご合戦に先陣をのぞむのは誰しもおなじことだ、けれども誰かは留守城をあずからねばならぬ。先陣をつるぎの切尖とすれば本城のまもりは五躰といえよう、五躰のちからまったくしてはじめて切尖も充分にはたらくことができるのだ、たとえ先陣、留守の差はあっても、これを死處とする覚悟に二つはないぞ、わかるか信次」【死處】 夏目吉信

人間にとって大切なのは「どう生きたか」ではなく「どう生きるか」にある、来し方を徒労にするかしないかは、今後の彼の生き方が決定するのだ、【日本婦道記 二十三年 新沼靭負】

家を守り立ててゆくということは事務ではなく、歌を詠むのとおなじ創作である。歌は詠み損じても裂き捨てればよいが、生活は決してやり直しができない。在った一日は在ったままで時の碑へ彫りつけられてしまう。創作とすればこんなに意義のある創作はほかにないと思う。【日本婦道記 桃の井戸】

「女房は一生のものだ」と辰造は続けた、「人間の一生はなみかぜが多い、いつなに何が起こるかわからない、なにか事が起こったとき、惚れて貰った女房だと、――男は苦しいおもいをしなければならない、どんなふうにということは云えないが、男は苦しいおもいをするものだ」辰造はちょっと黙って、それからしんみな口ぶりで云った、「女に惚れたら惚れるだけにしろ、いいか、女房はべつに貰うんだ、わかったか」 【水たたき】辰造

これが正しいという信念にとらわれると、眼も耳もそのほうへ偏向し、「正しい」という固執のため逆に、判断がかたよってしまう【ながい坂】

家を守り立ててゆくということは事務ではなく、歌を詠むのとおなじ創作である。歌は詠み損じても裂き捨てればよいが、生活は決してやり直しができない。在った一日は在ったままで時の碑へ彫りつけられてしまう。創作とすればこんなに意義のある創作はほかにないと思う。【日本婦道記 桃の井戸】

「こなたは世間を汚らわしい卑賤なものだと云われる、しかし世間というものはこなた自身から始るのだ、世間がもし汚らわしく卑賎なものなら、その責任の一半はすなわち宗方どのにもある、世間というものが人間の集まりである以上、おのれの責任でないと云える人間は一人もない筈だ、世間の卑賤を挙げるまえに、こなたはまず自分の頭を下げなければなるまい、すべてはそこから始るのだ」【武家草鞋】牧野市蔵

賞に推されたことはまことに光栄でありますが、私はつねづね各社の編集部や読者や批評家諸氏から、過分な「賞」を頂いていることでもあり、そのほかにいかなる賞もないと考えておりますので、ご好意にそむくようですがつつしんで辞退いたします。(「毎日出版文化賞辞退寸言」 1959年)#fedibird

「これはのそのそしちゃいられないわ」 その夜おしずは寝床の中で思わずそう呟いた。「少し頭を働かせなくっちや、ところがこの頭がなかなか云うことをきいてくれないんだから」「ふふふ、ばかねえ」 隣りの寝床でおたかがそう云った。「いま横になったと思ったらもう寝言を云ってるわ」 おしずは口をつぐんだ。そして、じっとしているうちに、本当にそのまますぐ眠ってしまった。【おたふく物語 妹の縁談】

「医術などといってもなさけないものだ、長い年月やっていればいるほど、医術がなさけないものだということを感ずるばかりだ、病気が起こると、或る個躰はそれを克服し、べつの個躰は負けて倒れる、医者はその症状と経過を認めることができるし、生命力の強い個躰には多少の助力をすることもできる、だが、それだけのことだ、医術にはそれ以上の能力はありゃあしない」【赤ひげ診療譚 駆込み訴え】 新出去定

大切なのはなにが万年さきまで残るかではなく、そのときばったりとみえるいまのことだ、地面に砂で描いた絵は半刻とは保たないだろう、しかしそれを描く絵師にとっては、生活のかてであるだけではなく、描いた砂絵は彼の頭から消えることはないだろう、いちばん大切なのは、そのときばったりとみえることのなかで、人間がどれほど心をうちこみ、本気でなにかをしようとしたかしないか、ということじゃあないか、そうは思えないか 【ながい坂】三浦主水正

人間のしたことは善悪にかかわらず、たいていいつかはあらわれるものだ、世の中のことはながい眼で見ていると、ふしぎなくらい公平に配分が保たれてゆくようだ 【ちくしょう谷】隼人

人間は生れてきてなにごとかをし、そして死んでゆく、だがその人間のしたこと、しようと心がけたことは残る、いま眼に見えることだけで善悪の判断をしてはいけない、辛抱だ、辛抱することだ、人間のしなければならないことは辛抱だけだ、【ながい坂】三浦主水正

人間はみな、自分では気づかずに、蒙昧と無知を繰り返しているものです、もちろんわれわれだってそのなかまに漏れはしないと思いますね【栄花物語】

賞に推されたことはまことに光栄でありますが、私はつねづね各社の編集部や読者や批評家諸氏から、過分な「賞」を頂いていることでもあり、そのほかにいかなる賞もないと考えておりますので、ご好意にそむくようですがつつしんで辞退いたします。(「毎日出版文化賞辞退寸言」 1959年)#fedibird

罵り憎みあいながら一生ともにくらす夫婦もあり、まるっきり反対な性分だったのに、やがてだらしのないほど仲がよくなり、むつまじく折り合ってゆく夫婦もある。その一つ一つにはまた幾百千とも知れない変化があるだろうし、それらは人間のちから以上の、なにかの力に支配されているのではないか。【醜聞】

およそ此の道を学ぶ者にとっては、天地の間、有ゆるものが師である、一木一草と雖ども無用に存在するものではない、先人は水面に映る月影を見て道を悟ったとも云う、この謙虚な、撓まざる追求の心が無くては、百年の修業も終りを完うすることはできない。虎之助は毎もその言葉を忘れなかった【内蔵允留守】

巳の年と亥の年の騒動が根になって、御新政という暴政を招いた、と云う者がいるけれども、そういう因果関係は観念的な付会であって、新らしく起こる事は、新らしい情勢から生れるものだ。【ながい坂】

「――うちのにお燗番をさせちゃだめですよ、燗のつくまえに飲んじまいますからね」 すると脇にいた女が、それではおまえさんの燗鍋はいつも温まるひまがないだろう、など云い、きゃあと笑い罵りあった。【雨あがる】

「早まった、お町どの、どうしてこんな」「いいえ、いいえ、町はもう、欣弥の許へ嫁ぐとき死んでいたのでございます、ただ、今日まで、この仔細をあなたさまにお伝え申したいため、ただそのために屍を保っていたのです。……夏雄さま、お父上の敵は申上げたお二人、いま寺内に、家中の者十三名と待伏せている筈です、どうぞ……おぬかりなく」 【秋風不帰】お町

古いものを表示
Nightly Fedibird

Fedibirdの最新機能を体験できる https://fedibird.com の姉妹サーバです