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一つ一つ、桑の木に手を触れながら、三十八本まで数え終ると、もはやがまんが切れ、そこへ棒立ちになって面を掩おおった。「おれのと、おまえのと、毎年二本ずつ、あれからずっと、欠かさず植えてきた」「――――」「夏になって、実が生ると、おれは独りで此処へ来て、おまえに呼びかけながら、この実を摘んで喰べた――この実で酒を醸して、おまえに呼びかけながら、更けた寝所で独りそっと飲む癖もついた、おまえはいつもおれの側にいたのだ、わかるか、悠二郎【桑の木物語】正篤

· · 山本周五郎作品より · 0 · 0 · 0
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