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人間は自然のために翻弄されてきた。恵まれ与えられると同時に、奪われたりふみにじられたりする。自然そのものは云いようもなく荘厳で美しいが、その作用はしばしば恐怖と死をともなう。人間はその作用とたたかい、それを抑制したり、逆用したりすることをくふうしてきた。その幾十か幾百かはものにしたが、どの一つも完全にものにはできなかった。いま降っているこの雨のように、用心していても、しっぺ返しにあうようなことが繰返されるのだ。「自然の容赦のない作用に比べれば」と主水正は声に出して云った、「貧富や権勢や愛憎などという、人間どうしのじたばた騒ぎは、お笑いぐさのようなものかもしれない」

· · 山本周五郎作品より · 0 · 0 · 0
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