1日に4回ほど、山本周五郎(1903〜1967)作品から独断的恣意的引用をお届けします。text 鋭意増量中。やっと100 text を超えました。長文多いです。ご容赦願います。ほぼほぼ青空文庫など、無料で読める作品ばかりです。TLの賑やかしに、おじゃまでなければ、フォローお願いします。#日本文学HP…https://yamabot.jimdofree.com/
「——そのもとにはおちつく場所はない、そのもとに限らず、人間の一生はみなそうだ、ここにいると思ってもじつはそこにはいない、みんな自分のおちつく場所を捜しながら、一生遍歴をしてまわるだけだ」【虚空遍歴】賤ヶ岳の老爺#fedibird #日本文学
「――人間には自然を征服するどころか、破壊することもできやしない、山を崩し、谷を埋め、海や川を改変し、死の灰で地を蔽おおっても、自然の一部に小さな、引っ掻き傷をつくるくらいがせきのやまだ」【おごそかな渇き】 松山隆二#fedibird #日本文学
眼ははっきりとさめたが、全身は力がぬけてもの憂く、がらん洞になったような胸の内側に、かなしみとも絶望とも判別しがたい、一種の深い孤独感がひろがってきた。彼はまた眼をつむり、聞えて来る遠い三味線の、幼い途切れ途切れの音色に、ぼんやり耳をかたむけていると、胸いっぱいにひろがってゆく孤独感の深さと、その救いのなさとに息が詰り、急に起きあがって喘いだ。【虚空遍歴】#fedibird #日本文学
保之助は酒を飲もうとした。しかしもう徳利は二つとも空であった。彼は唇を嚙んで頭を振った。額にどす黒い皺がより、こめかみに太く血管があらわれた。肉躰的な苦痛が、いまは一種の快感に変るようであった。化膿した歯齦を強く押すときの、むず痒い痛みに似た快感であった。【天地静大】#fedibird #日本文学
職人としてもまだいちにんめえにはなっちゃいねえ、――さぶ、おめえの気持はよくわかるが、おれたちにいま大事なのは自分のことだ、ここ二、三年でおれたちの一生がきまるんだ、 【さぶ】栄二#fedibird #日本文学
「人間は弱いもんだ、気をつけていても、ひょっと隙があれば、自分で呆あきれるようなまちがいをしでかす、……だれかれと限らない、人間にはみんなそういう弱いところがあるんだ、……ここをよく覚えておいて呉れ、いいか、……そんなこともあるまいが、長いあいだには、時三も浮気ぐらいするかもしれない、……そのときは堪忍してやれ、夫婦のあいだのまちがいは、お互いに堪忍しあい、お互いに劬り、助けあってゆかなくちゃならない、それが夫婦というものなんだよ」【寒橋】 伊兵衛#fedibird #日本文学
「……相手を斬ればおまえも切腹をしなければならぬ、勝っても負けても、今日おまえは生きてはいられなかったのだ、繰り返して云うが、武士には御奉公のほかに捨てるべき命はないものだぞ」 【ならぬ堪忍】 上森又十郎#fedibird #日本文学
女房が稼げば男はだめになるなんて、それは男が稼いで女を養ってやる、っていう思いあがった考えよ、亭主が仕事にあぶれたとき、女房が稼いでどうして悪いの、男だって女だっておんなじ人間じゃないの、この世で男だけがえらいわけじゃないのよ 【さぶ】おのぶ#fedibird #日本文学
この世に起こること、人間のすることはすべて善い、愛したり憎んだり、斬ったり斬られたりしながら、それらすべての経験によって、人間ぜんたいが成長してゆくのだ、【天地静大】#fedibird #日本文学
「――うちのにお燗番をさせちゃだめですよ、燗のつくまえに飲んじまいますからね」 すると脇にいた女が、それではおまえさんの燗鍋はいつも温まるひまがないだろう、など云い、きゃあと笑い罵りあった。【雨あがる】#fedibird #日本文学
「そんなにふくれるでねえよ、二郎さん」彼女たちはこんなふうに云う。「顔なんぞふくれたってなんの使いみちもありゃしねえだ、どうせふくらかすだらもっと使いみちのあるところにするがいいだよ」【似而非物語】#fedibird #日本文学
「——薬草ばかりじゃあねえ、人間だって町でくらせば精分がぬけちまうさ、そうしちゃあいけねえ、こうしちゃあいけねえ、それはだめだあれはだめだって、つまらねえことにがんじ搦めにされて、しょっちゅうあいそ笑いをしたり世辞やおべっかを使ったりして、ろくさま**も立たねえような腰抜けか、きょときょと眼を光らせている小猜いくわせ者になっちまう、町に住んでるやつらはみんなそうだ、みんな鋳型にはめられて、面白くも可笑しくもねえ人間になっちまう、おらあそんなことはまっぴらだ」 【ながい坂】大造 #fedibird #日本文学
戦場に於て最も戒むべきを『ぬけ駆けの功名』とする、一人ぬけ駆けをすれば全軍の統制がみだれるからだ、平時にあってもこれに変りはない、家中全部が同じ心になり互いに協力して奉公すればこそ家も保つが、もしおのおの我執にとらわれ、自分一人主人の気に入ろうとつとめるようになれば、やがては寵の争奪となり、五万石の家は闇となってしまう【粛々十三年】#fedibird #日本文学
おれはここで寝起きしながら、ぼて振りをし、夜泣きうどん屋をした、おれはここからぬけだすが、一生このようにして生きてゆく人たち、一生このような生活からぬけだすことのできない人たちが無数にいるのだ、ここには動かしようのない事実がある、おれは生涯この事実を忘れないぞ【ながい坂】三浦主水正#fedibird #日本文学
彼は山を眺め、空を見あげ、それから利根川の流れを見た。空は薄く絹を張ったような青で、ところどころに白く、ゆっくりと断雲が動いていた。川の水は澄みとおって、汀に近いところは底の小石が透いて見える。——対岸の河原も枯れた芦の茂みがひろがり、土堤の上を一人の農婦が、馬に荷車を曳かせて、川上のほうへ歩いていた。【天地静大】#fedibird #日本文学
「権力による政治がもし人間を不当に殺すなら、そういう政治は打ち毀さなくてはならない、不正な政治の下では学問だって満足に成長しやあしない、おれたちはそれに眼を塞いでいるぞ」【天地静大】 川上和助#fedibird #日本文学
「悪人と善人とに分けることができれば、そして或る人間たちのすることが、善であるか悪意から出たものであるかはっきりすれば、それに対処することはさしてむずかしくはない、だが人間は善と悪を同時に持っているものだ、善意だけの人間もないし、悪意だけの人間もない、人間は不道徳なことも考えると同時に神聖なことも考えることができる、そこにむずかしさとたのもしさがあるんだ」【ながい坂】三浦主水正#fedibird #日本文学
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